P&Gがマーケティングの「新時代」を宣言した理由とは?CMOが下すべき3つの決断

P&Gがマーケティングの「新時代」を宣言した理由とは?CMOが下すべき3つの決断

世界最大の広告主であるP&Gのチーフ・ブランド・オフィサー、マーク・プリチャード氏が、現在のマーケティング環境を「新たな時代(New Epoch)」と定義し、戦略の再構築を呼びかけています。

かつての「大量生産・大量消費・大量広告」のモデルが完全に終焉を迎え、メディア、コマース、そしてテクノロジーが複雑に絡み合う中で、日本のマーケターは何を指針とすべきでしょうか。専門編集者の視点から、プリチャード氏の洞察を深掘りし、実務に即した戦略的アクションを解説します。

P&Gプリチャード氏が提唱する「マーケティングの新時代」:断片化するメディアとAI・コマースの融合をどう勝ち抜くか

 1. 背景:なぜ今、マーケティングは「新時代」に入ったのか

P&Gのマーク・プリチャード氏は、長年にわたり世界のマーケティング業界のスタンダードを規定してきた人物です。その彼が、現在は単なる変化の延長線上ではなく、決定的な「時代の転換点」にあると警鐘を鳴らしています。

背景にあるのは、以下の3つのメガトレンドです。

① メディアの極端な断片化

地上波テレビの影響力が相対的に低下し、ストリーミング、SNS、ゲーミング、そしてリテールメディアといった多様なチャネルに消費者の時間が細分化されました。

②デジタルコマースの日常化

 パンデミックを経て、購買行動の起点がデジタルへと完全に移行しました。もはや「広告」と「購買」を切り離して考えることは不可能です。

③生成AIの台頭

クリエイティブの制作プロセスからメディアの最適化まで、マーケティングのバリューチェーン全体に破壊的な効率化と高度化をもたらしています。

プリチャード氏は、これらの要素が個別に存在するのではなく、互いに影響し合うことで、従来のマーケティング手法を無効化していると指摘しています。

2. 何が「本質的な変化」か:効率から「効果と関連性」への回帰

この新時代における最大の本質的な変化は「リーチの質」の再定義です。

これまでのデジタルマーケティングは、低いCPM(インプレッション単価)で大量の広告を露出し、リターゲティングで追いかけるといった「効率」の追求に偏りがちでした。しかし、プリチャード氏は、過剰な広告接触(フリークエンシー)が消費者の不快感を招き、ブランド価値を毀損していると批判しています。

本質的な変化は、以下の3点に集約されます。

「マスマス(Mass-Mass)」から「プレシジョン・アット・スケール(規模を伴う精密さ)」へ

誰にでも届けるのではなく、データに基づき「今、必要としている人」に、適切な文脈でリーチすること。実現のためには、パーソナライズの精度が求められます。

「広告」と「コマース」の融合

認知を取るための広告と、売るための販促という区分けがなくなり、あらゆるタッチポイントが「店舗(Shop)」としての機能を持つようになります。

AIによる「創造性の民主化と高速化」

AIは単なるコスト削減ツールではなく、無数のセグメントに対して、一人ひとりに最適化されたメッセージをリアルタイムで生成するための「エンジンの心臓部」となります。

3. 企業のマーケティングにどう影響するか

この変化は、日本企業の組織構造や予算配分に深刻なインパクトを与えると考えられます。

「広告宣伝」と「営業(販促)」の壁が崩壊

たとえば、あるドラッグストアチェーンのリテールメディア(楽天やウエルシアのアプリ内広告枠など)に出稿する場合を考えてみてください。

これまでであれば「広告費はマーケティング部門の予算」「アプリ内クーポンや棚の優先確保は営業・販促部門の予算」と、財布が完全に分かれているのが一般的でした。

しかし実態はどうでしょうか。同じユーザーが、朝のアプリ通知で商品を認知し(広告)、夕方に店頭でクーポンを使って購入する(販促)というのは、今や一つの連続した購買行動です。

この一連の流れを「広告」と「販促」で別々のKPIで管理している限り、どの接点が売上に貢献したかを正確に把握することは不可能です。

リテールメディアが持つデータは、広告の効果測定と購買結果を紐づける力を持っています。これらを統合的に管理できない企業は、「どこに投資すれば最も売上に直結するか」という問いに答えられないまま、投資対効果(ROI)の最適化で競合に大きく差をつけられることになります。

「ファーストパーティデータ」の重要性がさらに高まる

クッキーレス時代の到来に加え、AIを精度高く稼働させるためには、自社で保有する良質な顧客データが不可欠です。データの質が、そのままマーケティングの「知能」の差となります。たとえば、自社ECサイトの購買履歴や、会員登録時に取得したメールアドレス・行動データがその代表例です。

かつてはサードパーティクッキーを使えばGoogleやMetaのプラットフォーム上で見込み客を追跡できましたが、その手法が使えなくなりつつある今、「自社が直接保有しているデータ」の厚みが、ターゲティング精度の差となって直接現れます。

さらにAIを活用した広告最適化やパーソナライゼーションも、入力データの質が低ければ精度は上がりません。データの質が、そのままマーケティングの「知能」の差となる時代です。

「クロスメディア計測」の整備が急務に

あるユーザーがテレビCMで商品を知り、翌日YouTubeの広告で再認知し、最終的にInstagramの投稿を見て購入したとします。しかし現状の多くの日本企業では、テレビ・YouTube・Instagramがそれぞれ別の部署・別のツールで管理されているため、「このユーザーの購買にどのチャネルが何%貢献したか」を一元的に把握できていません。

プリチャード氏はこの問題に触れ、ANA傘下の計測機構・Aquilaについて「長年この聖杯を追い求めてきたが、今やソリューションが存在する」と述べました。AquilaはMeta・Google・Amazon・TikTokのインプレッションデータと、テレビ・ストリーミングのデータを統合した業界横断の計測基盤です。日本においても、こうしたプラットフォームを横断した計測インフラの整備は急務です。

「クリエイティブの量と質」の両立が求めれる

10年前であれば、30秒のテレビCMを一本つくれば、それを複数媒体で流用するだけで事足りました。しかし今は、Instagram用の縦型動画・YouTube用の横型動画・Xのバナー・LINEのポップアップ・店頭デジタルサイネージと、チャネルごとに最適なフォーマットと尺が異なります。

これを従来通り外部制作会社に都度発注していては、制作コストと時間が膨らむ一方です。P&Gではすでにメディアを内製化し、広告・コンテンツ制作・インフルエンサー運用まで一気通貫で自社管理する体制に移行しています。生成AIを活用したワークフローの刷新は、もはや「効率化の選択肢」ではなく「競合に遅れを取らないための必須条件」になりつつあります。

4. P&Gを参考にデジタルマーケティング責任者が取るべき具体的アクション例

プリチャード氏の洞察を日本市場の文脈に落とし込んだとき、今日から着手すべきアクションは以下の3つです。

アクション1:メディアミックスの再定義と「過剰接触」の排除

単なる「認知度」や「インプレッション数」を追うのをやめ、クロスチャネルでのフリークエンシー管理を徹底してください。

具体策

「アドエビス」などの計測ツールを利用し、複数プラットフォームを横断して、一人のユーザーに何回広告を見せているかを計測するインフラを整える。過剰な接触をカットして浮いた予算を、未リーチ層への獲得やリテールメディアへの投資に回す。

アクション2:リテールメディアを「ブランディング」の場として活用する

日本でもAmazon、楽天、LINE、そして大手コンビニやドラッグストアのリテールメディア化が進んでいます。これらを単なる「棚の確保」のための販促費と捉えず、購買データに基づいた「最も購買に近いブランディング」の場として再定義してください。

具体策

販促部門とマーケティング部門の合同チームを編成し、リテールメディアを通じた「購買行動に直結するブランドメッセージ」の配信テストを開始する。

アクション3:生成AIを「オペレーションの核」に組み込む

AIを「便利なツール」として試す段階は終わりました。クリエイティブ制作、コピーライティング、データ分析のワークフローにAIを組み込み、人間は「戦略の方向付け」と「ブランドの倫理的判断」に集中する体制を構築してください。

具体策

生成AIを活用したコンテンツ制作のガイドラインを策定し、外部エージェンシーに対してもAI活用による制作期間の短縮とバリエーションの増加を要求する。同時に、自社のブランドトーンをAIに学習させ、一貫性を担保する仕組みを作る。

編集後記

P&GのようなグローバルジャイアントがAIやデジタルコマースに全振りする理由は、それが単に「新しいから」ではなく、それが「最も売上に直結し、かつ持続可能だから」です。

日本のマーケティング現場では、依然として「テレビとデジタルの分断」「データに基づかないクリエイティブ決定」が散見されます。しかし、プリチャード氏が示す「新時代」では、こうした非効率は即座に市場シェアの喪失につながります。

この変化を「リスク」ではなく、テクノロジーによって「個々の消費者に寄り添う本来のマーケティング」に立ち返る「機会」と捉える必要があります。

「あなたのブランドは、AIに正しく認識されているか」

プリチャード氏が語るAI活用は、主にクリエイティブ制作やメディア最適化の「攻め」の文脈です。しかし今、マーケターにはもう一つの問いが突きつけられています。

消費者がChatGPTやGeminiに「〇〇カテゴリでおすすめのブランドは?」と問いかけるとき、AIはウェブ上の情報を総合してブランドを評価し、回答します。いかに優れたクリエイティブを制作しても、AIが自社ブランドを引用・推薦しない状態では、AIが接点となるユーザーへのリーチは根本的に損なわれます。

P&GがAIによる「一人ひとりへの最適化」を推進する時代だからこそ、自社ブランドがAIの中でどう表現されているかを把握し、能動的に最適化する取り組み LLMO(Large Language Model Optimization)が新たな必須戦略となっています。

グラッドキューブが提供するLLMOAは、生成AIによる自社ブランドの認知状況と引用傾向を可視化し、LLMO施策の立案から実行までをワンストップで支援するサービスです。「AIを使う戦略」と「AIに選ばれる戦略」、その両輪を回すことが、新時代のマーケティング競争優位の条件となります。

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記事執筆:株式会社グラッドキューブ 佐谷 建斗

参照記事:https://www.marketingdive.com/news/pgs-pritchard-on-how-brands-must-navigate-a-new-epoch-in-marketing/815940/