エージェンティック広告で「広告代理店」はどう変わるのか|運用型広告の歴史から見る現在地

エージェンティック広告で「広告代理店」はどう変わるのか|運用型広告の歴史から見る現在地

【記事の要約(ここだけでもポイントは掴めます)】

  • デジタル広告はこれまで「広告主→広告代理店→媒体」という構図で動いてきた。広告代理店が専用のツールを操作して入札・調整・レポートを担う、という役割。AI技術の進化により「AIが広告主と媒体を直接つなぐようになるので、広告代理店は不要になる」という見方が出てきましたが、これはまだ確定した話ではない。
  • 実際の動きを見ると、大手広告代理店のOmnicomはAI機能を自ら開発して「AIを使いこなす代理店」へ進化しようとしており、媒体側もAI機能を組み込んで代理店と連携を続けています。「代理店がなくなる」というより「代理店の仕事の中身が変わる」という見方が現時点では有力です。
  • 広告主の75%が「AIで広告効果が上がる」と期待している一方、42%が「AIに任せるとブラックボックスになる」リスクを心配しているというデータもあります(マッキンゼー調査)。期待と不安が同時に存在している過渡期です。

1. まず整理:これまでのデジタル広告の仕組みとAIが変えようとしていること

「エージェンティック広告」という難しい言葉が登場していますが、まずは基本の構図を押さえておきましょう。

これまでのデジタル広告は「広告主→広告代理店→媒体」という流れで動いていました。
広告主(例:商品を売りたいメーカー)が予算と目標を広告代理店に渡し、代理店のスタッフが専用の入札ツール(DSP)を操作して「どの媒体に・いくらで・どんな人に」広告を届けるかを日々調整します。その結果を月次レポートにまとめて広告主に報告する、というのが基本の流れです。

「エージェンティック広告」とは、このプロセスをAIが自律的に担うものです。広告主がAIに目標と予算とルールを設定すると、AIが計画・入札・最適化・レポートを自動で行うイメージです。「だとすると、人間の代理店スタッフは何をするの?」という疑問が出てきますが、それが今まさに業界で議論されていることです。

「DSP」とは:広告主側が使う入札ツール(Demand-Side Platform)のこと。Googleの広告管理画面のようなもので、代理店のスタッフがここで入札金額や配信条件を設定します。「SSP」は媒体側のツール(Supply-Side Platform)で、広告枠を販売する役割を担います。

これまで(人間が運用)これから(AIが運用)
広告主がすること広告代理店に目標・予算を伝えるAIエージェントに目標・予算・ルールを設定する
広告代理店の役割ツール(DSP)を操作して入札・調整・レポートを作成AIを監督・設計する「ディレクター」へ
媒体への接続代理店がDSP経由でSSPに入札し、媒体に広告が掲載されるAIエージェント同士が直接交渉し、媒体に掲載される(可能性がある)
費用の流れ広告主 → 代理店マージン → DSP手数料 → SSP手数料 → 媒体「不要な中間マージンが減る」という期待があるが、実際はまだ不透明

2. 「代理店はなくなる」は本当か:業界の見方は分かれている

2024年頃から「AIが代理店の仕事を奪う」という論調が業界で広まりました。しかし、実際の動きを見ると話はそう単純ではありません。

米国の広告業界専門メディアAdExchangerのコラム(2026年6月)は、こう指摘しています。

「過去の歴史を見ると、新しいテクノロジーが登場しても、仲介業者がなくなるのではなく、新しい形に作り変えられてきた。AIも同じパターンをたどる可能性がある。」(AdExchanger, The Sell Sider, 2026年6月)

わかりやすく言えば、「道具がデジタルになっても代理店が残ったように、道具がAIになっても代理店は形を変えて残るのではないか」という見方です。

ただし、これは一つの意見であり、反論もあります。本記事ではその両方の動きを紹介します。

3. 実際に何が起きているか:3つの事例

抽象的な議論より、実際の動きを見たほうがイメージが掴めます。現時点での主要プレイヤーの具体的な動きを3つ紹介します。

プレイヤー何をしているか代理店の役割はどう変わるか
Omnicom
(大手広告代理店)
AI機能を自社で開発し、AIが媒体に直接入札する仕組みを試験中代理店がなくなるのではなく、「AIを動かす司令塔」として変化する動き
PubMatic
(広告枠を売る会社)
AI対応の広告取引基盤「AgenticOS」を開発。実際に1,000件超の取引が成立代理店がこのAI基盤を使って効率化できる。代理店排除ではなく代理店との連携で機能している
LINEヤフー:「Agent i」2026年4月に提供開始。LINE・Yahoo!のAIを統合した日本最大級のエージェント媒体側が直接ユーザーにAI機能を提供。広告代理店を介さずに完結するケースが出てくる可能性

事例①:Omnicomは「AI版の代理店」を目指している

世界最大規模の広告グループの一つ、Omnicomは「AIを使いこなす代理店」になろうとしています。具体的には、自社のデータ基盤「Omni」にAI機能を組み込み、AIが代わりに媒体への入札を行う仕組みを試験的に動かしています。

OmnicomのCTO(最高技術責任者)Paolo Yuvienco氏は「目的は、広告費の中で実際に広告出稿に使われる割合を増やし、間に入る事業者へのコストを減らすことだ」と説明しています。ただし、あくまで「代理店内でAIを活用する」という話であり、広告主から見れば引き続きOmnicomという代理店を使っていることに変わりはありません。AIが効率を上げるツールになる、という方向性です。

事例②:PubMaticは「代理店も使えるAI基盤」を作っている

広告枠を媒体に代わって販売するPubMatic社が「AgenticOS」というAI対応の取引基盤を開発しています。2026年第1四半期の実績として、この基盤を使った取引が1,000件を超え、AIが完全に自律して行った広告キャンペーンも30件以上実施されたと報告されています。

注目すべきは、この基盤を実際に使っているのが広告代理店だという点です。Amnet社(電通グループの運用型広告部門)やHorizon Media(米国大手代理店)などが使用しており、「代理店をなくす技術」ではなく「代理店がより効率的に動くための技術」として機能しています。

編集部補足:「1,000件超の取引」というのはPubMaticという一社のプラットフォーム上の件数であり、業界全体の規模感ではありません。また「30件の完全自律型キャンペーン」はAIが人間の承認なしに動いたケースで、まだごく少数の試験段階です。

事例③:LINEヤフーは「媒体が直接ユーザーにAIを届ける」方向へ

日本では2026年4月20日、LINEヤフーが「Agent iを提供開始しました。「Yahoo! JAPANアシスタント」と「LINE AI」を統合したAIエージェントで、LINE・Yahoo!という媒体自体がユーザーへ直接AI機能を提供します。

この動きが広告代理店にとって意味するのは「媒体が代理店を介さずに直接ユーザーにつながる窓口を作り始めている」ということです。企業向けにはAgent i Bizという法人向けサービスが2026年8月から提供予定で、広告代理店を経由せずに企業と媒体がAI経由で直接取引できる場が生まれる可能性があります。

4. 業界共通の「ルール作り」も始まっている:AAMPとは何か

こうした個別の動きと並行して、業界全体でAIによる広告取引の「共通ルール」を作る動きも始まっています。

IAB Tech Labという業界団体が「AAMP」(エージェンティック広告の管理プロトコル)というルールセットを2026年2月に正式に命名しました。簡単に言えば「広告主側のAIと媒体側のAIが、スムーズに安全に取引できるための共通言語」を作っているイメージです。

Netflix・The Trade Desk・Yahooなど主要なプレイヤーが参加しており、このルールが整備されることで「どの会社のAIを使っても同じルールで取引できる」環境が整います。ただしこれもまだ策定途中であり、普及までには時間がかかる見通しです。

「AAMP」が整備されることで何が変わるか:今は代理店が「A社のDSP」「B社のSSP」と個別に契約して繋いでいますが、AAMPが普及すると「AIエージェントが自動的に最適な媒体を見つけて取引する」ことが標準化されます。これが実現すると、代理店の「繋ぎ役」としての機能は一部AIに代替される可能性があります。

5. 広告主はどう感じているか:期待と不安の調査データ

マッキンゼーのレポート(2026年)が米国の広告主を対象に調査した結果は、期待と不安が同時に存在している現状をよく表しています。

まず期待の側から。広告主の75%が「AIを使うことで広告費の使い方が改善する」と答えており、33%が「費用対効果(ROAS)が10%以上向上する」と見込んでいます。また50%以上が「AIによって消費者の購買行動のプロセス自体が変わった」と実感しています。

一方で、心配している点もあります。42%の広告主が最大のリスクとして「AIにブラックボックスで最適化されることへの依存」を挙げています。これは「AIが何をどう判断して広告を配信しているのかわからない」という不安であり、これはAI以前から存在していた「代理店やツールへの丸投げ問題」と本質的に同じ課題です。

このデータで押さえるべきポイント:エージェンティック広告が「新しい問題」を生むのではなく、「従来からある不透明性の問題」がAI時代になっても継続している、という見方が現実的です。「AIにしたら透明性が上がる」「下がる」という単純な話ではありません。

6. 日本市場への影響:数字で見る現状

最後に日本市場の状況を押さえておきましょう。電通が2026年3月に発表したデータによれば、2025年の日本のインターネット広告費は4兆459億円に達し、初めて総広告費の過半数(50.2%)を占めました。2026年はさらに8.3%成長する見込みです。

この成長するデジタル広告市場で、エージェンティック広告の動きはどう影響するでしょうか。現時点でははっきりした答えはありませんが、以下の3点が今後の注目点になります。

  • 日本の大手広告代理店がAIオーケストレーション機能をどう取り込むか:電通・博報堂・ADKなど大手代理店がOmnicomと同様のAI機能開発に動くかどうか
  • LINEヤフー「Agent i Biz」の普及度:2026年8月からの法人向けサービスが、広告代理店を介さない直接取引の場になるかどうか
  • 中小の広告主・代理店への波及:大手から始まるAI化がいつ中小規模のプレイヤーにも届くか

まとめ:今、マーケターが考えておくべき3つの問い

エージェンティック広告の動きはまだ始まったばかりで、「広告代理店がなくなる」「なくならない」の答えは現時点では出ていません。ただ、いくつかの方向性はある程度見えてきています。

「代理店の仕事がなくなる」というより、「入札やレポートといった作業はAIが担い、代理店は戦略・設計・監督を担う役割にシフトしていく」というのが現実的な見通しです。そのシフトが5年後なのか10年後なのかは、使われるAIツールの普及速度次第です。

広告主・マーケティング責任者として今考えておく価値がある問いを3つ挙げておきます。

  1. コストの透明化:自社の広告費のうち、実際に媒体に届いている割合が適切か。デジタルマーケティングにおいて、どこにコストがかかっているかを把握すること。
  2. AI権限の線引き:AIによる自動最適化をどこまで「任せる」か、どこは人間が判断するかの方針を決めているか。「ブラックボックスへの依存」リスクへの対策として、AIに渡す権限の範囲を明確にすることが重要。
  3. 良質な自社データの整備:自社のファーストパーティデータ(自社が直接保有する顧客データ)の整備が進んでいるか。AIが精度高く動くには良質なデータが前提。広告費の見直しより先に、データ基盤の整備を優先することが長期的に有効。

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エージェンティック広告がどのような形で普及するかはまだ不透明ですが、「自社の広告費がどこへ流れているか」の可視化と「ファーストパーティデータの整備」は、どの展開になっても有効な準備です。

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【参照・引用出典】

Agentic Advertising Isn’t Reducing Intermediaries. It’s Just Rebuilding Them(AdExchanger, The Sell Sider, 2026年6月):https://www.adexchanger.com/the-sell-sider/agentic-advertising-isnt-reducing-intermediaries-its-just-rebuilding-them/

Omnicom Has An AI-Powered Plan To Cut Out Ad Tech Middlemen(AdExchanger, 2026年4月):https://www.adexchanger.com/agencies/omnicom-has-an-ai-powered-plan-to-cut-out-ad-tech-middlemen/

PubMatic’s Agentic AI Is Going Beyond Direct Deals(AdExchanger, 2026年5月):https://www.adexchanger.com/programmatic/pubmatics-agentic-ai-is-going-beyond-direct-deals/

PubMatic Announces First Quarter 2026 Financial Results(PubMatic, 2026年5月7日):https://investors.pubmatic.com/news-releases/news-release-details/pubmatic-announces-first-quarter-2026-financial-results

IAB Tech Lab names its agentic ad initiative AAMP(PPC Land, 2026年3月):https://ppc.land/iab-tech-lab-names-its-agentic-ad-initiative-aamp-to-end-market-confusion/

The Agentic Advertising Economy: From Attention to Action(McKinsey, 2026年)

2025年 日本の広告費(電通, 2026年3月5日):https://www.dentsu.co.jp/news/release/2026/0305-011003.html