【記事の要約(ここだけでもポイントは掴めます)】
- 「体験型マーケティング」へのグローバル支出は2024年に1,283億ドルに達し、初めてパンデミック前水準を超えた。デジタル広告のCPA高騰・Cookie規制によるターゲティング精度低下という「二重苦」を背景に、体験型マーケティングが再評価されている。
- 「体験型マーケティング」の本質的な変化:単なる「認知拡大のイベント」から「フルファネルのデータ基盤・LTV最大化の起点」へ。98%の消費者が体験・イベントでデジタルまたはSNSコンテンツを作成し、Cookie不要のファーストパーティデータを収集できることもポイント。
- 日本企業への3つの推薦アクション:①「シェアされる必然性」を組み込んだ空間設計②デジタルとリアルのデータ統合(CRM連携)③ロイヤルカスタマー向けコミュニティ形成。デジタルに疲弊するユーザーが多くなる今、B2CにおけるROI指標は短期的な獲得単価ではなくブランドリフト・UGC価値・LTVで評価すべき。
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1. なぜ今「体験型マーケティング」なのか:背景と市場規模

パンデミックを経て、消費者の行動様式は劇的に変化しました。デジタル上での利便性はもはや「当たり前」となり、人々はオンラインでは代替不可能な「本物のつながり」や「五感を刺激する体験」を切望しています。特に日本のZ世代は特に「体験」を重視する傾向があります。
Z世代を中心に「モノ」よりも「思い出に残る体験」に支出を割く傾向が顕著で、81%のZ世代・ミレニアル世代が従来の広告手法より「インタラクティブなブランド体験」を好むと回答しています。日本市場でも、デジタルとリアルの融合(OMO:Online Merges with Offline)が成功の鍵を握っています。
また、Sparks社プレジデントのMelissa Levyは、Marketing Dive(2026年6月8日)のインタビューでこう述べています。
「体験型マーケティングは今、まさに特別な瞬間を迎えています。本当に素晴らしい時代だと感じます。」Melissa Levy, President of Sparks(Marketing Dive, 2026年6月8日)
📊 業界エビデンスデータ
- グローバルの体験型マーケティング支出:2024年に1,283億ドルを記録し、初めてパンデミック前水準を超過(EventTrack 2026)
- 84%の消費者向けマーケターが2026年にイベント支出を増加予定。3分の1は予算を8〜15%増加(EventTrack 2026)
- 51%の企業が2024〜2026年にかけて体験型マーケティング投資を増加予定(he State of Experiential Marketing 2024)
- 9割のマーケターが「ブランド体験は自社戦略に不可欠」と回答(9 out of 10 marketers now describe experiential marketing as essential to their overall strategy)
デジタル広告への過度な依存は、ブランドの均一化を招きました。同じような広告文・バナー・訴求内容…他社と同じアルゴリズム・同じようなバナー広告の中で埋没しないためには、消費者の記憶に深く刻まれる「特別な体験」を提供し、ブランドの「独自の文脈」を構築する必要があります。
2. 本質的な変化:体験型マーケティングが「フルファネルのデータ基盤」へ進化している

従来の体験型マーケティング(イベントやサンプリング)は、単なる「認知拡大」や「一時的なお祭り」として捉えられがちでした。しかし、現代における本質的な変化は、体験型マーケティングが「フルファネルのデータ基盤」へと進化したことにあります。
| 変化の軸 | 従来の体験型マーケティング | 現代の体験型マーケティング |
|---|---|---|
| 目的 | 認知拡大・一時的なお祭り | フルファネルのデータ基盤・LTV最大化の起点 |
| 消費者との関係 | 企業が一方的にメッセージを伝える「受動」 | ブランドのストーリーに消費者が参加する「共創」 |
| 期間設計 | 1日限りのイベントで完結(点) | 前後のデジタル施策と組み合わせた長期関係構築(線) |
| データ活用 | Cookie依存・サードパーティデータ中心 | リアルな接点から収集するファーストパーティデータの宝庫 |
| KPI | インプレッション数・来場者数 | UGC創出率・ブランドリフト・購買頻度・LTV |
ファーストパーティデータの宝庫としての側面

Cookie規制が強化される中、リアルな体験の場は、消費者の嗜好や行動特性を直接把握できる貴重な接点です。入場時のLINE連携・QRコードチェックイン・体験内での行動ログを組み合わせることで、精度の高いファーストパーティデータを収集できます。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)の自動創出
📊 業界データ
- 98%の消費者が体験・イベントでデジタルまたはSNSコンテンツを作成(EventTrack)
- 96%のミレニアル世代がブランドイベントで撮影した写真・動画をオンラインでシェア
- ライブイベント参加後に購買可能性が高まる消費者:85%(Marketing Dive)
- ブランド体験はTV広告より記憶に残ると回答した消費者:約90%(Marketing Dive)
- 70%がブランドをリアルで体験した後にリピーター(repeat customers)になる
エビデンスデータから、イベントに参加したユーザーは「高確率」でSNSなどで拡散をし、リピートする傾向がある。
3. 日本企業のマーケティングへの影響は?
マーケティングKPIの再定義
現在、AI検索の普及によりインプレッションやクリック数の指標が使い物にならなくなっています。今後におけるマーケティングのKPIは、滞在時間・SNSでの二次拡散数(UGC創出率)・体験後のブランドリフト調査、そして長期的な購買頻度(LTV)が重視されるようになります。
フィジタル(Phygital)設計の加速
物理的(Physical)な体験とデジタル(Digital)な利便性をシームレスに繋ぐ設計「フィジタル(Phygital)」が不可欠です。ポップアップストアでの体験をその場でアプリに統合し、後日のEC購買へ繋げる導線設計などが求められます。とある調査では、すでに67%のエージェンシーがデジタルと物理の融合によるハイブリッド体験型フォーマットを採用済みです(BusinessResearchInsights, 2026)。
ブランドの透明性と信頼の強化
「見て・触れて・感じる」体験は、誇大広告に対する不信感を払拭し、ブランドへの信頼を強固にします。ライブイベントでブランドとインタラクションした後にブランドへの信頼が高まると回答した消費者は77%に上ります。
4. 日本企業のマーケティング責任者が取るべき3つのアクション

アクション①:「シェアされる必然性」を組み込んだ空間設計
日本市場において、SNS(特にInstagramやTikTok)での拡散は、体験型マーケティングの成否を分ける最大の要因です。撮影スポットを作るだけでなく、「そこでしか撮れない、ブランドの世界観を体現した物語性のある空間」を設計してください。
消費者が「誰かに教えたい」と思う感情的なトリガーを、UI/UXデザインの観点から埋め込むことが重要です。
98%の消費者が体験・イベントでコンテンツを作成・シェアするというデータ(EventTrack)は、「シェアされる設計」への投資が直接的なオーガニックリーチの拡大につながることを意味しています。
アクション②:デジタルとリアルの「データ統合」
体験を「やりっぱなし」にしないために、テクノロジーを活用します。イベント入場時のLINE連携やQRコードを活用したチェックインを必須化し、リアルな場での行動ログ(どの展示に興味を持ったかなど)を既存のCRMデータと紐付けます。これにより、イベント後のパーソナライズされたフォローアップメールや広告配信の精度を劇的に高めることができます。
アクション③:コミュニティ形成への転換
大規模な不特定多数向けのイベントよりも、熱量の高いファンを対象にした「スモール・エクスペリエンス」を継続的に実施します。優良顧客(ロイヤルカスタマー)限定のワークショップや、開発秘話を共有するクローズドな体験会を定期開催することで、強力なアンバサダーを育成し、オーガニックな推奨を加速させます。日本人は「帰属意識」を重視する傾向があるため、ブランドを中心としたコミュニティの構築が特に有効です。
5. 日本国内の先進事例:3つのブランドが示す「体験型マーケティング」の最前線
「日本でも通用するのか」という問いに対して、国内の先行事例が明確な答えを示しています。
事例①:花王「月祭(TSUKISAI)」:社員が直接おもてなしする体験型イベントの継続展開
花王は2023年からスタートした体験型イベント「月祭(TSUKISAI)」を、2024〜2025年にかけてら·ら·ぽーとEXPOCITY(大阪)・クイーンズスクエア横浜・東急プラザ原宿「ハラカド」など全国各地で継続開催しています。入場無料・予約不要で、花王社員が「おもてなし隊」として接客するという点が特徴的です。
目玉コンテンツは花王独自開発の特殊UVカメラによる「日焼け止めの塗りムラ・塗り残しチェック体験」。自分の肌を科学的に可視化できる「驚き体験」がSNS投稿を自然に促し、ハッシュタグ投稿による二次拡散を生み出しています。スタンプラリー形式で複数ブースを回遊させる設計も、滞在時間を最大化する工夫です。
INSIGHT CUBE視点:消費者向けメーカーとして「製品を売る場」ではなく「科学的な気づきを体験する場」として設計している点がポイントです。「自分の日焼け止めの塗り方が間違っていた」という個人的な発見は、SNS投稿の強力な動機になります。「驚き体験」がUGCを自然に生み出す設計の好例です。
事例②:アークテリクス「ReBIRD™ HOUSE」(原宿・2024年9月):サステナビリティ哲学をリアルで体現

参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000104427.html
アウトドアブランド「アークテリクス」は2024年9月、原宿のUNKNOWN HARAJUKUに期間限定(10日間)のポップアップイベント「ReBIRD™ HOUSE」を開催しました。ランドリースペースを会場に設置し、GORE-TEXアパレル製品を持参した来場者が実際に洗濯・乾燥を体験できるという、類を見ないユニークな設計です。
廃棄予定のファブリックを使ったアップサイクルワークショップ「ReBIRD™ TABLE」では、世界に一つだけのネームタグを参加者が制作。「正しいメンテナンスを行うことで製品寿命が延び、サステナビリティへとつながる(Design to Last)」というブランド哲学を、言葉ではなく体験として伝えています。BIRD CLUBの会員登録を参加条件としている点も、ファーストパーティデータの収集基盤として機能しています。
INSIGHT CUBE視点:この事例が示すのは「体験型マーケティングは新製品発表のためだけではない」という視点です。「既存製品を長く使う体験」がブランドのサステナビリティ哲学と直結しており、来場者が「このブランドの価値観は本物だ」と感じる信頼構築の場として機能しています。会員登録を参加条件としたことでファーストパーティデータも同時に収集しています。
事例③:ナイキ「Nike App」連動型 OMO体験(日本国内店舗):データとリアルを統合した購買体験

ナイキは公式アプリを中心としたOMO(Online Merges with Offline)戦略で、日本を含むグローバル市場での体験型マーケティングの標準を作っています。アプリでの閲覧・購買履歴をAIが学習し、個々の嗜好に合わせた商品提案を店舗訪問時にも活用。店舗ではアプリ会員限定のスムーズな決済や先行販売商品へのアクセスという「特別な体験」を提供しています。
このモデルはアクション②「デジタルとリアルのデータ統合」の最も進んだ実装例です。オンラインで蓄積したデータがオフラインでの体験価値を向上させ、さらにオフラインの行動がオンラインへのエンゲージメントを高めるという好循環を生み出しています。
INSIGHT CUBE視点:「アプリ会員限定の特別体験」は、1st Partyデータ取得の強力なインセンティブとして機能しています。「会員になれば店舗でも優遇される」という設計が、Cookie後時代のデータ戦略と体験設計を直結させています。日本のアパレル・小売企業が今すぐ参照すべきモデルです。
6. 「体験型マーケティング」のROIをどのように評価するか

体験型マーケティングは、デジタル広告に比べてコストが高く見えるかもしれません。しかし短期的な獲得単価ではなく、「顧客との絆の深さ(ロイヤルティ)」と「そこから生まれる良質なUGCの価値」を評価軸に据えるべきです。
消費者は今、これまで以上に「つながり」を求めています。デジタルで効率を追い求めつつ、リアルで感情を動かす。この両輪を回すことこそが、次世代のデジタルマーケティング責任者に求められる最重要ミッションです。
なお、56%のマーケターが体験型マーケティングのROI測定に課題を感じているというデータもあります(BusinessResearchInsights, 2026)。「測定できないから後回し」ではなく、測定設計自体を体験の企画段階から組み込むことが競争優位につながります。
体験型イベントに来たユーザーを、AIが24時間接客する時代へ
体験型イベントを訪れたユーザーは「もっと知りたい」という高いエンゲージメント状態で会場やWebサイトに訪れます。その瞬間に「次の一手」を届ける接客体験こそが、体験型マーケティングの価値を最大化します。SiTest AIコンシェルジュは、感情豊かなAIアバターがユーザーに話しかけ、自社ナレッジ(RAG)をもとに正確な回答を行い、会話の文脈に応じてCTA(購入アクション)を動的に分岐させる次世代の接客プラットフォームです。「イベントに来てくれた方専用のおもてなし」でAIコンシェルジュが出迎える設計が、リアルとデジタルをシームレスにつなぎます。
まとめ
今回のMarketing Diveの記事(Melissa Levy・Sparks社プレジデント、2026年6月8日)が示す方向性は明快です。体験型マーケティングは「コストがかかるオフライン施策」ではなく、「Cookie後時代のファーストパーティデータ収集基盤」かつ「UGCを通じたオーガニックリーチの増幅装置」として機能します。
グローバルで1,283億ドルの市場が証明するように、今、デジタルとリアルを統合する体験設計に先行して投資した企業が、次の競争ステージで優位に立てます。
スマートフォンの画面から離れ、消費者が「呼吸」し「感じる」場所へ、ブランドを連れ出しましょう。
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→ 体験型マーケティングで積み上げたブランドの世界観・顧客インサイト・VoCを、AIエージェントが参照できる「ブランドコード」として構造化することが次のステップです。
【参照・引用出典】
Why the time is now for experiential marketing — and how to get it right(Marketing Dive / Aaron Baar, 2026年6月8日):https://www.marketingdive.com/news/why-the-time-is-now-for-experiential-marketing-and-how-to-get-it-right/820588/
The Freeman Company Appoints Melissa Levy as President of Sparks(Globe Newswire, 2026年1月27日):https://www.globenewswire.com/news-release/2026/01/27/3226691/0/en/The-Freeman-Company-Appoints-Melissa-Levy-as-President-of-Sparks.html
Experiential Marketing Statistics 2026(EventTrack 2026 データ含む):https://www.kandephotobooths.com/blog/experiential-marketing-statistics/
26 Experiential Marketing Statistics Every Brand Should Know in 2026(Seeker.io, 2026年5月):https://products.seeker.io/blog/experiential-marketing-statistics/
Why Experiential Marketing Is Winning in 2026(LUME Studios, 2026年4月):https://www.lumestudios.com/blogs/why-experiential-marketing-is-winning-2026
Experiential Marketing Service Market 2026–2035(BusinessResearchInsights):https://www.businessresearchinsights.com/market-reports/experiential-market-102282
参考:Z世代は「エモ消費」、瞬間的なときめきで買う 女子高生646人に調査
:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC302AH0Q6A330C2000000/


