高単価アパレルECの「セール依存」を断ち切る。顧客フェーズ別アプローチとWeb接客によるCX(顧客体験)戦略

高単価アパレルECの「セール依存」を断ち切る。顧客フェーズ別アプローチとWeb接客によるCX(顧客体験)戦略

高単価ECが陥るセールによる利益圧迫とブランド毀損のジレンマ

デジタルマーケティングの世界において、多くの高単価アパレル・D2CブランドECが「新規獲得のためのセール」と「利益・ブランド価値の維持(プロパー販売)」のトレードオフに苦しんでいます。

目先のCPA(顧客獲得単価)を下げるためにセールやアウトレットを多用すれば、顧客に「待てば安く買える」という印象を与え、利益率の高いプロパー(定価)商品の売上が低迷する悪循環に陥ります。

本記事では、平均単価数万円の欧州インポートのメンズアパレルを展開するT社のECサイト事例を通じ、アウトレットを新規獲得のフックと割り切り、既存顧客にはプロパーを打ち出していく「顧客フェーズ別アプローチ」と、高額商材をオンラインで定価販売するための「Web接客」を掛け合わせたCX(顧客体験)戦略のプロセスを解説します。

結論として、T社はブランドを毀損することなくプロパー売上比率を劇的に改善し、過去最高の月商記録更新を果たしました。

<本記事でわかること>

  • 高単価アパレルECがセール依存に陥る構造的な理由と、そこから抜け出すための考え方
  • 新規顧客と既存顧客で訴求・体験を使い分ける顧客フェーズ別アプローチの具体的な進め方
  • 実店舗の接客体験をECサイトに落とし込み、定価販売率を高めるWeb接客の実践方法

集客と育成を分ける顧客フェーズ別アプローチ

T社が抱えていた最大の課題は、高単価ゆえに新規顧客が定価で買いづらく、結果としてEC売上の多くをアウトレット(セール)品が占めてしまうというビジネスモデル上のジレンマでした。

この状況を打破するため、T社を支援している当社(株式会社グラッドキューブ)は商材の役割を顧客との関係性のフェーズに合わせて再定義しました。

すなわち、「アウトレット商品=初回購入のハードルを下げる集客用」「プロパー商品=LTV(顧客生涯価値)を最大化する利益創出用」と位置づけ、新規顧客と既存顧客それぞれに届ける情報と体験を、意図的に切り分けて運用することにしました。

ターゲット活用チャネル商材の役割施策の意図
新規顧客Web広告(Meta/Google等)アウトレット(フック商材)新規顧客と既存顧客で訴求を別々に。新規顧客に対して、アウトレット品の訴求を行い、初回購入のハードルを下げ、ブランドとの接点(リスト)を獲得する。
既存顧客CRM(LINE/メルマガ)プロパー(LTV最大化商材)セール・割引の訴求を控えめに。新商品やブランドの世界観や付加価値の提供に特化し、定価での継続購入(LTV向上)を促す。

この顧客ごとに届ける情報を変える方針(新規にはセール訴求を、既存にはブランド価値を)により、アウトレットによる利益減少・ブランド毀損のリスクを排除しました。具体的には以下のようなコミュニケーションを各フェーズで展開しました。

新規集客フェーズ(Web広告):アウトレット訴求を活用した新規獲得の最大化

Meta広告(Facebook/Instagram)やGoogle広告においては、新規顧客と既存顧客(過去の購入者)とで、訴求を別々のものにしました。新規ユーザーに対しては「最大50%OFF」などのアウトレット訴求を押し出し、ブランドとの最初のタッチポイントを創出。「高単価で手が出ない」という初回ハードルを価格的メリットで突破することに専念しました。

顧客育成フェーズ(CRM):セール依存からの脱却

一方で、既存顧客に向けた広告、LINEやメルマガでは、安易な割引キャンペーンの配信を抑えました。代わりに注力したのが「顧客の文脈に寄り添った情報提供」です。

データ分析をもとに、夜間のリラックスタイムや週末、給料日後など「購買意欲が高まるタイミング」へ配信時間を最適化。さらに、ブランドのこだわりに関する記事や、新作入荷のお知らせ、気温に合わせたスタイリング提案の記事など、ブランドに価値を感じてもらう記事や旬の情報でロイヤル顧客の購買意欲を喚起するコミュニケーションへとシフトさせました。

実店舗の体験をWebでも実施

顧客フェーズ別アプローチと並んでもう一つの重要な柱が、ECサイト上の顧客体験(CX)の見直しです。

アウトレットを入り口に入ってきた新規顧客であれ、CRMで育成された既存顧客であれ、単に商品の写真を並べただけのサイトでは、数万円のジャケットは定価で売れません。そこで、実店舗の優秀な販売員が行っている「接客」をサイトのコンテンツへと落とし込み、高額商品を買う際の「不安」を取り除くため、現場とグラッドキューブでA/Bテストを繰り返しながらサイト全体を改修しました。

商品・素材に関するこだわり・説明をよく見られる場所に

ブランド・素材・商品へのこだわりを伝える情報を、商品詳細ページの価格情報の下のよく見られる箇所に追加しました。「イタリアの職人による手仕事の背景」や「素材の希少性」といった内容はデータ上でも閲覧数が高く、付加価値の訴求につながっています。

サイズ感の不安を払拭する、身長別の着用画像

「高額商品なのに、自分に合うサイズがわからない」というオンライン特有の不安を取り除くため、スタッフによる身長別の着用画像をコンテンツとして拡充しました。特にジャケットは身長によって丈の見え方が大きく変わるため、複数の身長帯での着用イメージを掲載。実店舗での試着に近い情報を提供することで、購入への心理的ハードルを下げています。

生地の質感・シルエットを伝える、商品イメージ動画(PIP)の実装

静止画だけではどうしても伝わりにくい、ブランド特有の生地の質感や、実際に動いた際のシルエットを直感的に伝えるため、当社の SiTest を活用し、商品詳細ページに動画(PIP:ピクチャー・イン・ピクチャー)を実装しました。これにより商品の魅力が立体的になり、定価での購入を強力に後押ししました。

こうした検証を重ねることで、サイトを訪れたあらゆるユーザーに対して「商品の背景を知る → 自分の体型での着用イメージが湧く → 納得して定価で購入する」という、セールに頼らない勝ち筋のフォーマットを確立しました。ECサイトを、実店舗のような「買い物体験」を提供できる場へと変えていきました。

成果と示唆

顧客フェーズ別アプローチとWeb接客。この2つを掛け合わせたCX戦略の結果、T社のデータには劇的な変化が表れました。

  • プロパー商品の売上構成比の大幅な改善と利益率の向上(セール期であっても、プロパー商品の売上が先月売上合計金額と並ぶ等)
  • 購入率(CVR)の飛躍的な向上(前年同月比で2倍以上を記録した月も発生)
  • 過去最高の月商記録を更新(月商1,000万円の大台を突破)

「広告でアウトレットを購入した新規顧客が、CRMを通じてブランドのファンになり、Web接客が実装されたサイトでプロパー商品を購入するロイヤル顧客へと育つ」という理想的な循環を行うことができています。

本事例から得られる教訓は、自社の価格帯を変えられなくとも、顧客フェーズに応じた顧客体験(CX)を統合的に見直せば、事業の利益率は劇的に改善する、ということです。

局所的なCPA改善に行き詰まりを感じている、あるいは自社のブランド価値とセールの狭間で葛藤を抱えている経営層・事業責任者の方は、全体最適の視点を持つ当社コンサルタントによる伴走支援をぜひご検討ください。