【記事の要約(ここだけでもポイントは掴めます)】
なぜ重要か:「フィジカル AI」の市場開拓は、もう始まっています。 SaaS のような先行事例がない以上、勝ちパターンは自分たちで一つずつ作るしかありません。
6 つの事実:
- 目標を件数から売上へ移しました。 ugo は獲得件数や CPA ( 1 件あたりの広告費)ではなく、商談の総額(パイプライン)を共通目標に据えました。
- 入口にひと手間を加えました。 Meta 広告のフォーム冒頭に「法人ですか?」の質問を置き、本気の見込み客だけを通しました。
- クリエイティブは実配信で決めました。バナーにロボットを大型配置し Meta 広告の CTR (クリック率)が 0.5% から 1.0% へ倍増しました。
- 「国産」を強みの中心に据えました。顧客が求める安心の理由に応え、低い広告費で継続的にリードを獲得しました。
- 行動データで追客を精緻化しました。 Google Demand Gen で CTR 8% ・ CVR (成約率) 5% を実現しました。
- リードの質と量が同時に 2 倍になりました。サイト全体の CV 数が 2 倍、質を担保する設計と両立しました。
マーケターへの示唆:「先月比プラス数ポイント」を追うのをやめ、売上につながる指標を共通目標に置き、小さく試して勝ちパターンを積み上げてください。
フィジカル AI が社会に広がり始めた今、この新しい市場で事業を立ち上げるマーケターには、手本にできる先行事例がほとんどありません。 AI ロボット「 ugo (ユーゴー)」の実際のマーケティングを例に、前例のない市場で事業を伸ばすための考え方を整理します。
補足:本記事は、ugo株式会社 執行役員 CMO 白井謙友様への取材をもとに新規事業のマーケティングという切り口で制作・再構成したものです。
なぜ、「フィジカル AI 」のマーケティングに前例がないのか

生成 AI がソフトウェアの世界を大きく変える一方で、現実世界で動く AI 、いわゆる「フィジカル AI 」も、社会のなかで急速に使われ始めています。働き手の減少を背景に、点検・警備・搬送といった現場の仕事をロボットが担う流れは、もう実験ではなく本格的な事業の段階に入りつつあります。
ただ、この分野で新しい事業を立ち上げるマーケターは、必ずある壁にぶつかります。参考にできる前例がない、という壁です。
| 補足:「フィジカル AI 」とは、わかりやすく言えば、生成 AI のようにソフトウェアの中だけで完結するのではなく、ロボットとして現実世界で動いて作業する AI のことです。 |
SaaS であれば、先行する成功事例がいくらでもあります。広告費の相場観も、どのチャネルを使うべきかという定石も、すでに広く共有されています。ところがフィジカル AI は、市場そのものがまだできあがっていません。誰が買い手で、どこにいて、どんな言葉に反応するのか。それを一つずつ自分たちで試して確かめていくしかありません。
本記事は、こうした前例のない市場で事業を伸ばすための考え方を、 AI ロボット「 ugo 」の実際のマーケティングを例に整理したものです。フィジカル AI に限らず、新しい市場に挑む事業責任者やマーケターのヒントになれば幸いです。
「フィジカル AI 」市場に共通する 3 つの難しさ

新しい市場での事業には、成熟した市場とは違う難しさがあります。フィジカル AI の分野では、それがとりわけ強く出ます。
- 市場をつくりながら開拓する
成熟した市場のマーケティングが「すでにあるパイの奪い合い」だとすれば、新しい市場のマーケティングは「パイそのものの形を描く」ことに近いといえます。比べられる前例がないため、打つ施策の一つひとつが、そのまま市場を知るための実験になります。 - 高額で、じっくり検討される
BtoB のハードウェア、なかでも AI ロボットは、買い手が時間をかけて慎重に選ぶ商材です。数百万円規模の投資が、その場の勢いで決まることはありません。導入までには現場・情報システム部門・経営層など複数の人が関わり、検討には数ヶ月から数年かかります。短期的に広告費あたりの獲得数だけを追う運用では、この長い検討プロセスと噛み合いません。 - 使えるお金も人も限られている
新しい市場を切り拓くのは、たいてい少人数のベンチャーです。潤沢な予算にものを言わせて攻めることはできません。限られた資金のなかから「最も効果の大きい一手」を見極め続ける必要があります。
グロースさせるための「5つの原則」
グロースの原則 1 :「件数」ではなく「売上への貢献」を目標にする

前例のない市場で最も陥りやすいのが、追いやすい数字を追ってしまうことです。獲得件数や CPA ( 1 件あたりの広告費)は測りやすいぶん、いつのまにかそれ自体が目的になってしまいます。ですが新しい事業の本当の目的は、あくまで売上や利益を伸ばすことにあります。
ugo のマーケティングチームが目標に置いていたのは、単なる獲得件数ではありませんでした。営業(インサイドセールス)が「これは商談になる」と判断した見込み客、つまり SQL (商談化した有望なリード)が金額にしてどれくらいのパイプライン(見込みの商談総額)になっているか。これを共通の目標にしていました。マーケティング・営業・カスタマーサポートが一つの流れとして連携し( THE MODEL 型)、広告費を「使って終わるお金」ではなく「事業を伸ばすための投資」として扱う。この視点の切り替えが、目先の数字あわせで終わらない成長の土台になります。
グロースの原則 2 :あえて「ひと手間」を入れて、本気の見込み客だけを集める

リード獲得では、「件数」と「質」はしばしば両立しません。フォームを簡単にすれば件数は増えますが、本気度の低い人も混ざります。特に AI ロボットのように検討に時間のかかる商材では、質の伴わないリードが大量に集まると、かえって営業の手間ばかりが増えてしまいます。
ugo の初期の施策で象徴的だったのは、 Meta 広告のフォーム(広告からワンタップで開く入力画面)の最初に、「法人ですか?」という質問をあえて一つ加えたことです。入力の手間を減らして件数を増やすのが普通なので、これは逆の発想にあたります。この一つの質問がふるいの役割を果たし、個人や情報を見たいだけの人はここで離脱し、本当に導入を検討している法人だけが先に進みます。完了数は伸びにくくなりますが、残った見込み客は商談につながりやすい、質の高いものになります。
グロースの原則 3 :広告は会議室の「議論」ではなく「実際の反応」で決める

何が正解か分からないからこそ、広告のクリエイティブ(画像や動画、コピー)は、会議室での議論ではなく、実際に配信して反応を見ながら決めていきます。 ugo の検証から見えてきた勝ち筋は、大きく三つありました。
一つ目は、ロボットを大きく見せることです。実物そのものへの関心が強い市場なので、機体を主役にした見せ方がクリック率を押し上げました。実際、Meta 広告の CTR (クリック率)は 0.5% から 1.0% へと倍になっています。
二つ目は、動画の型を押さえて作り込むことです。動画広告では、 Google が提唱する「 ABCD フレームワーク」に沿って構成しました。冒頭で目を引き( Attention )、ブランドを印象づけ( Branding )、何ができるかを具体的に伝え( Connection )、最後に行動を促す( Direction )。この 4 つを押さえることで、限られた本数でも高い効果を出せました。
三つ目は、相手の業種を名指しすることです。「設備系」「保全担当」「データセンター」など、狙う業種や職種をはっきり書いたバナーを個別に用意し、見た人に「これは自分向けの広告だ」と感じてもらう狙いです。
グロースの原則 4 :一番刺さる「強み」を、顧客の不安を理解し選ぶ

新しい市場では、打ち出せる強みがいくつもあるなかで、どれを主役にするかが勝負を分けます。 ugo の場合、その中心になったのが「国産」という言葉でした。
現実の世界で動く AI ロボットにおいて、「国内で開発・製造している」という事実は、大きな信頼の裏付けになります。とくにデータセンターや工場のような大手企業との取引では、この安心感が効きます。研究開発向けのページで「国産」を軸に狙いを定めたところ、これが顧客の求めていたものとぴったり合い、低い広告費で継続的に見込み客を獲得できました。
これは「自社が言いたいこと」ではなく、「顧客が安心の理由として求めていること」を強みの中心に据えた結果です。
グロースの原則 5 :見込みの高い人を、行動の記録から見分けて追いかける

検討に時間のかかる商材では、一度接点を持った人をいかに逃さず育てるかが成果を左右します。ただ、「サイトに来た人すべてに広告を追いかけて出す」だけでは、狙いが大ざっぱすぎます。
ugo が行ったのは、その人の行動の深さに応じて追いかけ方を変えることでした。「ページの滞在時間が長い人(上位 10 〜 25% )」「動画を半分以上見た人」など、関心の高さを示す行動でグループ分けし、それぞれに合った広告を出し分けます。これは リターゲティング(一度サイトを訪れた人に、再び広告を届ける手法) をより細かく設計したものです。 Google Demand Gen では動画をよく見た人に絞って配信したことが効き、CTR 8% ・ CVR (成約率) 5% という高い成果につながりました。
フィジカル AI のような高額商材で効く勝ち筋:ウェブ広告 × 展示会

ここまでの原則の多くは、 AI ロボットに限らず幅広い事業に応用できます。なかでも、高額で慎重に検討される商材で特に効いてくるのが、オンラインとオフラインを組み合わせるやり方です。画面越しの情報だけで購入が決まることはまずありません。だからこそ、役割を分けた二つの入口が効いてきます。
ウェブ広告(オンライン):まず「知ってもらう」。「国産」「フィジカル AI 」といったメッセージを届け続けることで、「フィジカル AI といえば ugo 」という印象を市場に根づかせます。
展示会(オフライン):実物を見て「決めてもらう」。広告で名前を知った顧客が、展示会場で実際に機体に触れます。会場では「広告を見ました」という声が数多く上がりました。実物のある商材だからこそ、触れられる場が最後のひと押しになります。
成果:リードの質と量が同時に「 2 倍」へ

これらの原則を約 1 年間、素早く試しては改善するサイクルで回し続けた結果、 ugo のマーケティングは単なる数字の改善を超えた成果を生みました。
次の表は、この 1 年で主要指標がどう変わったか(これまで → これから)を一目で確かめるためのものです。
| 指標 | これまで → これから(約 1 年前比) | 背景 |
|---|---|---|
| サイト全体のセッション・ユーザー数 | → 1.5 倍 | 広告の認知効果が非指名検索・直接流入にも波及 |
| サイト全体の CV 数 | → 2.0 倍 | リード獲得量が倍増し、商談パイプラインに直結 |
| Meta 広告 CTR | 0.5% → 1.0% | 機体の大型配置と動画活用 |
| Google Demand Gen | CTR 8% / CVR 5% | 行動データに基づく高精度リターゲティング |
| Google 検索広告 CTR | → 4.0% | 「国産」等、確度の高い層へのリーチ |
ここで大きいのは、リードの「量」( CV 数が 2 倍)と「質」(商談につながる見込み客に絞る設計)が同時に伸びた点です。ふつうは片方を取れば片方が犠牲になりがちですが、両方を実現できました。入口でのひと手間による絞り込みから、最後の商談総額での評価まで、一貫して「売上への貢献」を基準に置き続けたことが効いています。
まとめ:前例のない市場で事業を伸ばす 6 つの考え方

フィジカル AI という新しい市場の事例から取り出せる原則を、あらためて整理します。市場が若いほど、これらは効いてきます。
- 目標を「売上への貢献」に近づける。追いやすい数字ではなく、売上につながる指標(商談の総額)を共通の目標にする。
- 入口でひと手間かけて絞り込む。件数と質の板挟みを、入口のフィルターで乗り越える。
- クリエイティブは試して決める。狙う顧客像が仮説である以上、勝ちパターンは実際に試すことでしか見つからない。
- 強みは顧客の不安に合わせて選ぶ。自社が言いたいことではなく、顧客が購入をためらう理由に応える。
- 行動の記録から本気度を見分ける。長い検討期間を、行動に応じた追いかけ方で逃さず育てる。
- オンラインとオフラインで役割を分ける。実物のある商材なら「知るのはオンライン、確信するのはオフライン」。
新しい市場での成長に「正解」はありません。ですが、正解がないからこそ、小さく試して改善を重ね、自分たちの勝ちパターンを一つずつ積み上げていく姿勢そのものが、最大の武器になります。フィジカル AI の普及がこれから本格化するなかで、この分野のマーケティングの知見はまだほとんど蓄積されていません。だからこそ、自ら試し、その結果を積み重ねていくことに大きな意味があります。
これからの話: AI に「見つけてもらう」ための備え( LLMO / AIO )

最後に、前例のない市場のマーケティングは、その手法自体もこれから変わっていきます。生成 AI の普及で人々の情報の探し方が大きく変わりつつある今、これまでの SEO (検索エンジン対策)に加えて、AI に引用・推薦してもらうための対策、 LLMO (大規模言語モデル最適化)や AIO ( AI 検索最適化)が、次の競争の場になります。
ここで一つ見落とせないのは、フィジカル AI のような前例のない市場ほど、 AI が参照できる情報がまだ少ないという点です。だからこそ、確かなデータにもとづいた知見を発信することは、市場そのものを形づくる取り組みであると同時に、これから AI に見つけてもらうための備えにもなります。
前例のない市場の開拓を、グラッドキューブが伴走します
「前例がない市場だからこそ、何から手をつけるべきか分からない」。そうした新規市場・新規事業のマーケティングにこそ、グラッドキューブの強みが活きます。
本記事で紹介した売上に直結する指標設計・リードの質の担保・データにもとづく高速な改善から、 AI 検索時代に向けた LLMO / AIO 対応 まで、戦略立案から実行までを一貫してご支援します。
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記事執筆:INSIGHT CUBE 編集部(株式会社グラッドキューブ)
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